米上院はクラリティ法案(暗号資産市場構造法案)のクローチャー投票を49対50で否決。60票に11票届かず、2026年内の成立は絶望的となった。BCG・DeFiに直撃する規制不確実性の構造リスクを深掘り解説。
米上院は2026年9月15日、暗号資産の市場構造を規定するCLARITY Act(Digital Asset Market Clarity Act)のクローチャー(討論終結)投票を実施し、賛成49・反対50で否決した。可決に必要な60票には11票届かず、2026年内の同法案成立は事実上不可能となった。採決後、複数の上院関係者から「次のチャンスは2030年」との発言が飛び出し、暗号資産業界に衝撃が走っている。
米国東部時間9月15日夕方、上院本会議場で行われたCLARITY Actのクローチャー投票は、賛成49票・反対50票という僅差で否決された。フィリバスター(議事妨害)を打ち切るために必要な60票には、実に11票不足する結果となった。
事前の業界予想では「可決確率16%」と厳しい見立てが示されていたが、直前の与野党協議で数名の中間派議員が賛成に回るとの観測が広がり、一時は「49票まで肉薄した」との速報も駆け巡った。だが最終盤で反対派が結束を固め、市場が期待した突破口はついに開かれなかった。
投票直後、ビットコイン価格は8万ドル手前から急落し、短時間で数千ドル規模の下げを記録。アルトコインもほぼ全面安となり、暗号資産市場全体の時価総額が数百億ドル規模で蒸発した。
否決直後、共和党の暗号資産推進派議員は記者団に対し「今回の敗北で、真剣に市場構造立法へ再挑戦できるのは早くても2030年になる」と語った。中間選挙、大統領選挙のサイクルを踏まえた発言で、事実上「今任期中の再提出は困難」との意味合いが込められている。
CLARITY Actは、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の管轄を明確化し、多くの暗号資産を「デジタル・コモディティ」としてCFTC管轄下に位置づける内容だ。DeFiプロトコルや分散型プロジェクトへの適用除外規定も盛り込まれ、業界にとっては悲願とされていた。
反対に回った議員の多くは、消費者保護条項の不足、マネーロンダリング対策の緩さ、そして「大手取引所への便宜供与」を懸念材料として挙げた。加えて、政権中枢と暗号資産業界の距離感を巡る政治的な思惑も、党派を超えた反対票の広がりに影響を与えたとみられている。
超党派で調整が進んでいた条文も、最終盤の修正協議で合意に至らず、賛成票の積み増しに失敗した。結果として、下院を既に通過していた法案は上院で完全に停止することとなった。
CLARITY Actの頓挫は、ブロックチェーンゲーム(BCG)事業者やDeFiプロジェクトにとって、極めて重い意味を持つ。米国内で発行されるゲームトークンやガバナンストークンが「証券」に該当するのか否かの判断が、引き続きSECの個別執行に委ねられる状態が続くためだ。
現行のハウィーテスト(Howey Test)に基づく判断は事案ごとに異なり、プロジェクト側は常に「後から証券認定される」リスクを抱えたまま運営を強いられる。米国ユーザー向けサービスを制限したり、トークン発行スキームを海外法人経由に切り替えたりする動きは、今後さらに加速する見通しだ。
BCGにおいては、NFTアイテムやゲーム内トークンの二次流通が「未登録証券取引」とみなされる可能性が排除できない状況が続く。DeFiでも、ステーキング、レンディング、DEXの各機能について、証券法違反での提訴リスクが恒常化することになる。
つまり、今回の否決は単に「業界が期待した規制緩和が来なかった」という話ではなく、事業計画の前提となる法的フレームワーク自体が数年単位で不透明なままとなる、構造的な問題を突きつけている。上場企業のトレジャリー戦略、機関投資家の参入判断、そしてスタートアップの資金調達にも、長期の停滞要因が積み上がることになる。
否決を受け、業界団体Blockchain Associationや複数の主要取引所は「深く失望している」との声明を相次いで発表した。一方で、「立法アプローチが閉ざされた以上、SEC・CFTC・財務省による行政ガイダンスの整備を急ぐべき」との現実路線も同時に語られている。
短期的には、既に進行しているスポットETFの追加承認や、ステーブルコイン法制(GENIUS Act系)といった個別テーマが、業界の主戦場となる見通しだ。市場構造という「本丸」が2030年まで先送りされた以上、業界としては、部分的な行政判断の積み上げで実質的なルール整備を進めるしかない局面に入る。
投資家サイドは、米国リスクを織り込んだ形でのポートフォリオ再構築を迫られる。米国依存度の低いプロジェクト、海外拠点を持つBCGスタジオ、香港・シンガポール・ドバイ・日本など明確な規制枠組みを持つ地域のトークンに、資金がシフトする流れが強まりそうだ。
CLARITY Actの否決は、単なる一法案の失敗ではなく、米国が暗号資産の市場構造ルールを2030年まで棚上げしかねない歴史的な分岐点となった。BCGやDeFiにとって、法的不確実性が「常態化」する時代に入ったという事実は重い。ただし、規制の空白は必ずしも悪材料ばかりではない。米国以外の司法管轄で戦うプロジェクトや、規制を先取りする企業にとっては、相対的な優位を築く好機ともなり得る。編集部としては、今後は「立法待ち」の姿勢から「行政判断と地域選択で勝ち抜く」姿勢への転換が、業界全体の生存戦略になると見ている。