米国の暗号資産市場構造法案「CLARITY Act」は、8月5日に上院共和党指導部が申請したクロージャーの対象に含まれず、夏季休会前の通常手続きによる採決が困難となった。
Polymarketの年内成立確率は記事執筆時点で約17%。GameFi・Web3ゲーム事業者が確認すべき実務対応を整理する。
米国の暗号資産市場構造を規定する重要法案「CLARITY Act(Digital Asset Market Clarity Act)」が、夏季休会前の上院採決に向けた通常の手続きから事実上外れた。
米国時間8月5日、John Thune上院院内総務は、8月7日の採決に向けて4件のクロージャーを申請した。しかし、その対象にCLARITY Actは含まれていなかった。8月6日の上院審議予定にも同法案は掲載されておらず、通常手続きによって休会前に審議を開始する可能性は極めて低くなっている。
予測市場Polymarketでは、CLARITY Actが2026年中に成立する確率が記事執筆時点で約17%まで低下した。法案自体が廃案になったわけではないものの、審議の焦点は9月以降へ移りつつある。
CryptoSlateやForbesは8月3日、CLARITY Actが同日の上院審議予定に掲載されていないと報じていた。その後も法案をめぐる手続きは進まず、8月5日にJohn Thune上院院内総務が申請したクロージャーの対象にもCLARITY Actは含まれなかった。
上院が公表した8月6日の審議予定によると、Thune氏がクロージャーを申請したのは、政府の継続予算に関する法案と修正案、大学スポーツ選手保護法案、司法長官候補の指名案件など計4件だった。これらのクロージャー投票は8月7日に実施できる状態となるが、CLARITY Actについては同様の手続きが取られていない。
CLARITY Actは、2025年7月17日に米下院を294対134の超党派多数で通過した。その後、上院銀行委員会が2026年5月14日に修正版を15対9で承認し、7月22日には銀行委員会と農業委員会の作業を統合した改訂案が公表されていた。
しかし、最新案に盛り込まれた政治家の暗号資産事業をめぐる倫理規定や、消費者保護、マネーロンダリング対策、市場の健全性などについて民主党側の懸念が解消されず、上院本会議で必要となる超党派の支持を確保できていない。
8月5日は、法律上定められたCLARITY Act固有の「最終期限」ではない。ただし、上院の通常ルールに基づいて8月7日に採決を行うためには、8月5日までのクロージャー申請が実務上必要だった。
クロージャーとは、上院での審議やフィリバスターを打ち切り、採決へ進むための手続きだ。通常は、正式に選出され宣誓を終えた上院議員の5分の3、一般的には60票相当の賛成が求められる。
共和党だけではこの水準に届かないため、CLARITY Actを前進させるには複数の民主党議員から支持を得なければならない。
仮に8月5日にクロージャーが申請されていた場合でも、8月7日に予定できたのは法案の最終可決ではなく、法案審議を開始するための「審議入り動議」に対するクロージャー投票だった。その後も本格的な審議、修正案の処理、最終採決などが必要となる。
全会一致による日程変更や超党派合意など、通常手続き以外の方法が理論上残されているため、休会前の動きが完全に不可能になったわけではない。しかし、8月6日の上院予定が別の法案や人事案件で埋まっていることを踏まえると、現実的な可能性は低い。
CLARITY Actは、暗号資産に対するSEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の管轄を整理し、デジタル資産の発行者や取引仲介業者に適用されるルールを明確化することを目的としている。
7月22日に公表された上院の改訂案には、デジタル商品を扱う取引所、ブローカー、ディーラーに対する登録・監督制度のほか、銀行秘密法に基づくマネーロンダリング対策や本人確認、ステーブルコイン報酬、DeFi、トークン化証券などに関する規定が盛り込まれている。
DeFiについては、単に「分散型」と名乗るだけで規制対象外になるわけではない。運営者が特定のユーザーを排除できる仕組みや、管理者だけが利用できる権限、ハードコードされた特別権限などを持つ場合、十分に分散化されていないサービスとして規制対象になる可能性がある。
GameFi分野でも、ゲーム内トークンやガバナンストークンが「ユーティリティトークン」であるという説明だけで、証券規制の対象外になるとは限らない。
トークンが保有者に与える権利、発行時の資金調達方法、運営会社の管理権限、利益を期待させるマーケティング、二次流通市場の構造などを総合的に確認する必要がある。
NFTについても、ゲーム内アイテムやコレクティブルであることだけを理由に、一律に規制対象外と判断することはできない。収益分配や事業利益への権利が付与されている場合や、値上がり益を強調して販売している場合には、従来の証券法上の論点が生じ得る。
法案の成立が遅れれば、米国で事業を展開するWeb3ゲーム事業者は、引き続き現行の証券法、商品先物取引法、銀行秘密法、州法、規制当局のガイダンスなどを個別に検討しなければならない。
CLARITY Actの審議が9月以降へ持ち越される可能性が高まったとしても、GameFi・Web3ゲームプロジェクトがコンプライアンス対応を止める理由にはならない。米国ユーザーを対象とする事業者は、少なくとも以下の項目を確認しておきたい。
1、トークンが与える権利の整理:配当、収益分配、買い戻し、議決権、運営会社の資産に対する権利など、トークン保有者が得られる経済的・法的権利を整理する。
2、販売方法とマーケティングの確認:トークンやNFTを販売する際、事業の成長による値上がりや投資収益を過度に強調していないか、ホワイトペーパー、SNS、AMA、KOL施策を含めて確認する。
3、分散化と管理権限の文書化:管理者権限、秘密鍵、アップグレード権限、資産凍結機能、ユーザーのアクセス制限、ガバナンス移行計画などを記録し、実態として誰がサービスを管理しているのかを明確にする。
4、マーケットプレイスとAML対応の確認:ゲーム内取引所、NFTマーケットプレイス、カストディアルウォレット、トークン交換機能を運営している場合、本人確認や取引監視などの義務が発生しないかを検討する。
5、米国ユーザー向けの提供体制を確認:米国居住者への販売・アクセス制限、利用規約、リスク開示、プライバシーポリシー、制裁対象地域への対応が、実際のサービス設計と一致しているかを確認する。
特に重要なのは、利用規約上では米国ユーザーを対象外としているにもかかわらず、実際には米国からアクセス、購入、換金できる状態になっていないかという点だ。
個別のトークンやNFTの法的位置づけは、設計や販売方法によって異なる。最終的な判断については、米国の証券法や金融規制に詳しい専門家への確認が必要となる。
CLARITY Actは廃案になったわけではないが、8月5日のクロージャー申請対象に含まれなかったことで、夏季休会前に通常手続きで審議を開始する道は事実上閉ざされた。
上院は8月10日から9月11日まで州内活動期間に入り、次の通常の審議再開は9月14日となる見込みだ。9月以降も中間選挙や予算関連法案などが優先される可能性があり、CLARITY Actに十分な審議時間を確保できるかは不透明である。
Polymarketにおける2026年中の成立確率も、8月3日時点で報じられていた約30%から、記事執筆時点では約17%まで低下した。今後、超党派の合意形成や別の法案への組み込みによって審議が再浮上する可能性は残るものの、短期的な成立期待は大きく後退したといえる。
GameFi・Web3ゲーム事業者にとって重要なのは、法案の成立を前提として事業設計を進めるのではなく、現行法の下でも説明できるトークン設計、運営権限、マーケティング、AML対応を整備することだ。政治日程に左右されないコンプライアンス体制の構築が、これまで以上に求められている。